乳 Süt(2008)
英文タイトルは『Milk』だが、私は本来の表記が気に入っている。実際、このタイトルは他の言語に翻訳されたとき、[なにか]が失われているような気がしたからである。非常に静かな映画で、駅構内でのバンドの演奏を除いて、ほとんど背景音楽といったものがない。場面の切り替えに唐突感はいなめないが、ときどき象徴的なシーンで[語り]そのものを代替しようとしている分、奥ゆかしさを感じなくもない。ただ、「あれはなんだったんだろ?」という疑問が映像を観るたびに浮かび上がってくることも多々あったし、「え?その後は?」と気にさせるものも結構多かった。色彩はきれいに把握され、構図も整っているが、場合によっては「整いすぎた」と感じさせられるところもある。それによって、日常感が失われ、あるいは遮断されてしまう。そこから[作り物]であることが露呈してしまう(ま、もともと、作り物ではあるけれども)。それと、脚本の流れを先行してしまった登場人物の動きがこの映画をだめにしている。なぜそこで[先読みして動いて]しまうのか、観客として、非常に不可解である。普段では予想不可能なものであるはずなのに、主人公はそれを先読みして自分の行動をそれにあわせてしまう。とくに車を尾行するシーンがひどい。このフィルムには詩がもっとも普遍的な文学形態として出てきている。そこがとても面白いところだった。時代の流れに逆らっていったような、創作の原風景を味わわせてくれるところがよかった。
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